構成 須川恒(琵琶湖ラムサール研究会)
世界湿地の日を祝うin湖北(2013年2月3日)の報告
植田潤(琵琶湖水鳥・湿地センター)
http://www.biwa.ne.jp/~nio/eng/index_e.html
日本で最大の湖琵琶湖は、1993年にラムサール条約の条約湿地として登録され、隣接したヨシ原の広がる西の湖は2008年に追加登録されました。 2013年2月3日に、私たちはWWD2013のための活動として、琵琶湖が条約湿地となって20周年をお祝いする会を琵琶湖湖北で行ないました。琵琶湖の条約湿地の20年間は, 今年の世界湿地の日のテーマ「湿地と水のマネージメント」に深くかかわっているからです。
[詳細]
(1)この会は琵琶湖水鳥・湿地センター&湖北野鳥センター(写真1)が主催し、
ながはまアメニティ会議、長浜市が共催し、琵琶湖ラムサール研究会 が後援をしました。
場所:琵琶湖水鳥湿地センターレクチャールーム、センターの周辺。
日時:2013年2月3日(日)午前9時30分〜午後2時
写真 1 琵琶湖水鳥・湿地センターの玄関は、琵琶湖を象徴する鳥であるカイツブリの顔に見えます。この写真の右側の建物は、琵琶湖の水鳥を観察するための諸設備がある湖北野鳥センターです
(2)開会の辞 木村将克 (センター長(琵琶湖水鳥・湿地センター&湖北野鳥センター))
(3)水鳥観察会
最初に、村上宣雄さんが参加者にラムサール条約についていくつかのクイズを出しました。
例えば、「ラムサール条約は水鳥の保護を目的としたものか?」「条約湿地の範囲のみが保全の対象か?」。どれもNo,です。
彼は湿地を観察することがどんなに大切かを指摘しました。山、川、水田、湖は、水でつながり、それぞれが湿地の生態系の一部となっています。水鳥は湿地がどれだけ豊かかを指標する良い、重要な指標です。
クイズのあと、私達はセンターのまわりで約1時間の野鳥観察を行い、ガン・白鳥・カモ類など38種の水鳥を観察しました(写真2)。
写真2 センター周辺で水鳥の観察会
(4)トークセッション「村上宣雄さんと息子の悟さん親子が語る琵琶湖ラムサール条約湿地の20年」
まず、進行役の須川恒さんが、ラムサール条約を含む多くの国際環境条約が地球環境の持続的利用をめざして活動をしている歴史を理解し、次世代に湿地保全の活動をつなげていくことが重要であると話しました(図1)
←2013 琵琶湖条約湿地20周年!
← 2012 Ramsar COP11 ルーマニア
←2011 Ramsar WWD2011 ラムサール条約40周年
国連生物多様性10年はじまる(2011〜)
←2011 3月11日東日本大震災
←2010 生物多様性条約COP10名古屋、愛知ターゲット
←2008 RamsarCOP10 韓国、西の湖追加登録
←(1999 知玄・壮一さん 生)
←1993 RamsarCOP5 釧路、琵琶湖登録
←1992 リオサミット アジェンダ21
気候変動枠組条約+生物多様性条約
←1987 ブルントラント委員会「我ら共有の未来(Our Common Future)」
← 1986 チェルノブイリ原発事故
←1980 日本がラムサール条約へ参加 釧路が登録
←(1976 悟さん 生)
←1971年2月2日 ラムサール条約締約、環境庁できる
←(1969 潤さん 生)
←1962 レーチェル・カーソン「沈黙の春」
← (1942 宣雄さん 生、1947 恒さん 生)
図1 国際環境条約の歴史を理解することが大切
ジッパー(ファスナー)を閉めるためには最初から閉めなければならない。途中から閉めることはできない。私たちは、国際環境条約の最近の進展にのみ関心を集中しがちであるが、ジッパーと同じく、正しい理解のためには、条約の最初から歴史をフォローしなければならない。
村上宣雄さんは、自然科学の教師として地域の湿地保全活動を続けてきており、二つのうまくいった活動を紹介しました。
最初の話は、滋賀県長浜市十里町に水草を導入していることです。琵琶湖湖岸近くには、多くの自噴井(flowing well ,Artesian aquifer)があって大量の清浄な水が流れだしています。十里町の井戸からも大量の清浄な水が流れ出しています。町民はあまりその大切さを意識していません。町民は水路掃除の時に、全部の水草を取り去りました。白い美しい花を咲かせるバイカモは、清浄な水流にのみ生育できます。村上さんは、十里町にバイカモを植え、町民は白い花を楽しむことできるようになりました(写真3)。
写真3 白い美しい花を咲かせる水草のバイカモ
二番目の話は、村上宣雄さんの住んでいる余呉町(現長浜市)についてです。余呉町長は2006年に補助金を得る目的で、核廃棄物地層処分地の計画を町に持ち込もうとしました。村上さんは、署名をした多くの町民の協力を得て、この計画を止めることができました。余呉町は琵琶湖の源流域にあり、琵琶湖淀川流域に住む人々の関心も高く、2万人以上の人々の署名が寄せられました。
2011年3月に福島原発事故がおこり、余呉町のケースは、あらためて全国的にテレビで報道されました。 余呉町のケースは、私達は核廃棄物をどうすればよいのかを考える機会を与えてくれます。
湿地にすむ魅力的な生物へ関心を持つ人は増えていますが、関心を持つ若い人は減っており、どのようにすれば湿地に関心を持つ若い人を増やすことができるかが今後の課題だと、村上宣雄さんは考えています。
息子の村上悟さんは、小さい時に保全活動をする父親の息子として育った個人史を語りました。彼はまた、現在代表理事として働いているNPO碧いびわ湖の歴史について語りました。
悟さんは、小さい頃から父親に連れられて自然に触れ、淡水魚や水鳥に関心を持ち、さらに特定の生き物への関心だけでなく、生態学や湿地の保全活動にかかわるようになりました。
NPO碧いびわ湖は、「無リン石鹸運動」にかかわったグループによってはじまりました。1977年、琵琶湖に赤潮が発生しました。異常な数のプランクトンが発生して湖の水の色が赤く変わりました。これは、大量のリンが湖に流入したために、プランクトンが急激に増加し蓄積されたためです。リンは合成洗剤に多く含まれていて、下水から生活排水が湖に流入したのです。グループの人々は、リンを含まない石鹸を使う運動をすすめ、グループの活動を引き継いだNPO碧い琵琶湖は、以下のような様々な活動を展開するようになりました。
●家庭から棄てられる廃食油の回収とその油を使って製造されたせっけんの共同購入
●琵琶湖の水源地域で生産される木材やお米の共同購入
●雨水タンクや薪ストーブ設置などの住宅リフォーム
1992年、滋賀県はヨシ帯の保護の条例を施行し、琵琶湖湖岸の湿地生態系の保全活動がはじまりました。1993年に琵琶湖がラムサール条約湿地として登録されました。琵琶湖は、下流域に住む1500万人の人々の水源としても重要です。琵琶湖条約湿地20周年は滋賀県はもちろん、琵琶湖淀川流域(図2)に住む、大阪・京都を含む多くの人々が祝うべきでしょう。
図2 琵琶湖・淀川流域
(5)KODOMOラムサール国際湿地交流inタイ(2013年1月) の報告
まず植田潤さんが、ラムサールセンターが企画しているKODOMOラムサール国際湿地交流の説明をしました。
2013年1月11日(金)〜13日(日)にタイ・ナコンサワンで「ESD-KODOMO
ラムサール国際湿地交流」があり、それに参加した、冨岡知玄(ともひろ)さん(浅井中学1年)、 上田壮一さん(八幡市立男山第3中学1年)が報告をしました。
彼らは、タイで最大の淡水湖、ブンボラベット湖の水草や水鳥、湿地の保全状況を、世界中から来た子供たちとともに視察し、そのあと、湖で見たことをもとに、この湖を守るために何が大切かと考えるかをグループディスカッションし、それぞれのグループはその結果を発表しました(写真4)。
写真4 タイにおけるKODOMOラムサール交流会で、二人は琵琶湖についての発表をしました。
(6)閉会の辞 植田潤
湖北野鳥センターに、「世界湿地の日を祝おう!」コーナー(写真5)がつくってあり、また2011年、2012年の世界湿地の日in 湖北の活動報告は琵琶湖水鳥湿地センターの以下の英文ページに掲載していることを紹介しました(2013年の報告も掲載されます)。
http://www.biwa.ne.jp/~nio/eng/index_e.html)
写真5 世界湿地の日のコーナー
(7) 琵琶湖条約湿地20周年のお祝いを世界に発信
20周年を祝うバースデイ・ケーキを囲んで皆が集まり、日本語と英語で「琵琶湖の条約湿地20周年おめでとう!」と言って、動画に撮りました(写真6)。これは以下の、YouTubeのサイトで見ることができます。http://www.youtube.com/watch?v=cKd63las2lI
その後、ケーキの形をした箱の中から出てきたお菓子や、お赤飯(お祝いの時に食べます)のおにぎりやケーキ、みかんなを食べるお茶の会を楽しみました。
写真6 バースデイ・ケーキを囲んで皆が集まり「琵琶湖の条約湿地20周年おめでとう!」と言って、動画に撮りました。これは以下の、YouTubeのサイトで見ることができます。 http://www.youtube.com/watch?v=cKd63las2lI
世界湿地の日についての詳細は琵琶湖ラムサール研究会による以下をお読みください。
http://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/ovwwd1.htm
世界湿地の日の活動は1997年からはじまっています。
世界湿地の日の活動は毎年テーマがあって、趣旨をあらわすポスターや解説したリーフレット、広報用の漫画などをスイスにある条約事務局が準備します。各地の人々は、その趣旨を考え、事務局が提供する資料も活動して世界湿地の日の活動を、2月2日前後の1ヶ月ほどの間にします。
各地の活動報告は、条約事務局に報告され、世界の人々は、条約のウェブサイトから国別に整理された各地の活動内容を見ることができます。
以下のサイトに行って、スクロールすると、各年度ごとに、左側に、各年の世界湿地の日のテーマにもとづく資料が、右側に各国からの報告を見ることができます。
http://www.ramsar.org/cda/en/ramsar-activities-wwds-world-wetlands-day-2/main/ramsar/1-63-78%5E21729_4000_0__
世界湿地の日in湖北2013の事務局への報告(英文)
(英文作成支援 鎌田智子さん)
図1のジッパーの絵作成 野村貴子さん