講演骨子
オホーツク海沿岸北部の環境と野生生物  −特にタラン島の海鳥−

アレクサンダ−・アンドレエフ
(ロシア科学アカデミー北方諸問題研究所鳥類学室(マガダン))



 オホーツク海沿岸北部はアジアの一番北東部になり独特の生物相が発達してきた。
 ロシアでも有数の寒冷地で、冬季は−40℃以下になる。セントラルヒーティングが壊れた際には、冷蔵庫を開けて暖をとるほどの寒さとなる。日本へ発つ直前、3月20日の気温は−23℃であった。
 このような寒さの中で暮らすベニヒワなどの小鳥は、空気の冷たい樹上で行動する前に、比較的暖かい氷の上でウォーミングアップをおこなう。その他、オジロワシ、シマフクロウ、クマゲラ、オオライチョウ、カワガラス、アビ類、コガラ、ヌマライチョウ、シノリガモ、オオヒシクイ、オオハクチョウなどが見られる。

 1500万羽に及ぶ海鳥が北オホーツク海で繁殖しており、このうちの6割がヤムスキ海盆付近のヤムスキー島など(マガダン市より東、カムチャツカ半島の西北側海域)で2割が北千島、1割がタラン島で繁殖している。ヤムスキー島付近は潮の干満の差は大きく、一日で8mにも達する。このために栄養分の循環がおこり、豊富な資源を生み出し多くの海鳥を支えている。ハシブトウミガラス、ウミガラス、ウミオオム、ウミスズメがその代表である。
 
 タラン島はマガダン市西方海上にある約2km×1kmの大きさの島で、最も高い部分で約200mである。島から150kmほどのところに暖流と寒流がぶつかる好漁場がある。約200種の鳥が確認されており、このうち10種が繁殖し、海鳥約150万羽が繁殖しており1986年より海鳥の調査のためのステーションが島にある。代表的な海鳥を以下にあげる。
・エトロフウミスズメ
 プランクトンを主食とし、のど袋(そのう)にプランクトンを蓄えて、夕方戻ってくる。おもしろいことに、すぐに巣に入らず、島の周りを2〜3時間飛び回った後に戻る(これは、豊富なエサを食べて体力が余っているせいか?)。また、朝も、すぐに採食地に向かわず、群れで近くの海に浮かぶ。この鳥の採食地は、島から70〜80kmも離れたところにあり、毎日往復している。
・ウミオウム
 前種とは逆に、あまり遠くには飛ばず、島の近くで主にヒトデの幼生を採食する。
・ウミガラスとハシブトウミガラス
 この島の崖の部分で密度が高く営巣する鳥で、潜って魚を採食する。この島で繁殖するオオワシの大切な餌資源である。
・ミツユビカモメ
 この鳥もウミガラスなどとまざって岩棚で営巣している。
・エトピリカ
 ロシア名はトポロック。この大きなくちばしは、魚を一度に沢山つかみやすいようにできている。深さ約40mまで潜り、30km〜40km離れた海域まで飛んで採食する。
・ケイマフリ
 とてもバランスの取れた鳥である。飛行、歩行、遊泳、潜水のすべてをこなすことができる。
・ウミスズメ
 この鳥の最大の繁殖地がタラン島である。真夜中にしか島に戻らない。ウミガラス・ウミスズメ類は1腹1卵が多いが本種は2卵を産む。卵からかえった雛は動けるようになるとすぐに崖をころがって荒れる海に出て洋上で親の世話を受ける(卵の中にいる間に鳴き声で親子はつながっている)。今回来日しているエレナ・ゴルボバ研究員が、網を張って転がり落ちる雛を捕獲し繁殖個体数の継続的調査をしている。
・ツノメドリ
 岩の隙間に巣を作る鳥で、島の近くで小さな魚を捕って暮らしている。

 タラン島はロシアの国の記念物に指定され、またIBA(国際的に重要な鳥類の生息地域)にも指定されている。真冬、島は凍結し、海鳥達はオホーツク海南部を含む日本近海で越冬する。海鳥の個体数にはほぼ変化はないが、ウミスズメだけが魚網による混獲によって個体数が減少している。タラン島での長期的な調査は、この島で繁殖する海鳥の未来に重要なかかわりがある。



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