要旨1
カムチャツカにおけるガン類の調査の歩み

ニコライ・ゲラシモフ、ユーリー・ゲラシモフ
ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理学研究所鳥類研究室
呉地 正行 日本雁を保護する会会長
池内 俊雄 雁の里親友の会事務局長



 カムチャツカのガンを本格的に調べ始めるようになった契機は1982年に日本とカムチャツカの研究者がモスクワで開かれた国際鳥学会で初めて顔をあわせ、カムチャツカのヒシクイに首輪をつける計画が決定したことである。
 1984年と1985年に、カムチャツカに数々あるガンの保護区の中で一番早く設立されたモロシェチナヤ川禁猟区と、ウトホロク禁猟区のマエント湖でヒシクイを捕獲して首輪をつけたが、これらの地域で繁殖する亜種ヒシクイの大部分は、日本へはほとんど渡来せず、サハリンとアムール川の河口部を経て中国に越冬のために渡って行くことが明らかになった。
 モロシェチナヤ川禁猟区にある湖では、5〜7,000羽のタイガ型のオオヒシクイが換羽していた。1986年以来首輪をつけた多くのオオヒシクイが日本で確認され、日本でガンの調査にかかわっている人たちに、このズベズドカン湖の名前は良く知られるようになった。
 1988年からはマコベツコエ湖(南西ツンドラ保護区)で見つかった亜種ヒシクイの集団換羽地で調査がはじまり、この亜種は日本で越冬していることが判った。また最初はオオヒシクイは少なかったが、その後オオヒシクイの割合が増えてきた。
 ガンの捕獲調査で一番お金がかかるのは、ヘリコプター代だ。ロシアで政治体制が変わると、カムチャツカと日本の研究者の間で、新たなガンの調査が始まった。まずニコライ・ゲラシモフが1989年に日本に初めて招待され、1991年から日本のガンの研究者がカムチャツカでの調査に加わるようになった。カムチャツカの研究者と日本雁を保護する会の緊密な連携は、我がロシアにおけるガン類の渡りと生態に関する調査の歴史において、最も収穫の多い時期だった。
 1990年代前半の調査の結果、以下のように、カムチャツカ半島に分布する主要なガン類の個体群を把握することができた。
1.カムチャツカ半島の北西部で繁殖する亜種ヒシクイの一つの個体群は中国で、そして恐らく一部は朝鮮半島で越冬する。
2.カムチャツカ半島南西部の亜種ヒシクイの個体群は、越冬のために主に日本へ渡る。この個体群の分布域は拡大しているが、これは、カムチャツカにおける積極的な保護策の結果である。
3.カムチャツカ半島西海岸の内陸部で繁殖し、モロシェチナヤ川流域かマコベツコエ湖で換羽するオオヒシクイ個体群は日本で越冬する。
 カムチャツカと日本のガンについて、新たに調べなければならない課題はまだたくさんある。
 日本の越冬地で見つかった重金属汚染や感染症によって死亡した雁を契機に病理学者が雁類の調査に関心を持つようになった。茨城県江戸崎町へやってくるオオヒシクイの独立個体群の繁殖地の解明も重要な課題である。
 その他、マガン、カリガネ、サカツラガン、ハクガン、コクガン、シジュウカラガンに関して、渡りの生態を解明し、保護していくための多くの課題がある。 カムチャツカと日本のガンについて、これらの興味深い調査や保護活動に、日本からあらゆる参加者をお招きしたい。



要旨2
 カムチャツカにおけるガン類保護の歩み

ニコライ・ゲラシモフ、ユーリ・ゲラシモフ
ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理学研究所鳥類研究室



 
かつてはカムチャツカ半島全域に分布していた雁類は、1960年代頃よりヘリコプターや船外機を使って生息地に入り込んだ多数のハンターによって、減少をはじめた。 ハンターはカムチャツカ半島北部のパラポル谷で、千羽単位でガンを撃った。中国でも同じ時期に、過剰な狩猟が行われ、雁類の個体数は激減した。 カムチャツカ半島西海岸のガンは、1970年代前半でもそれほど狩猟の影響は受けなかったが、雁類を保護する必要性が増した。保護策の柱は、ガンの繁殖地、中継地、そし換羽地に保護区を設立することから始まった。
 最初の禁猟区である「カラギンスキー島禁猟区」は、そこを通過するヒシクイやマガン、ハクガンを保護するためもあって1970年に設立された。1972年に設立された「モロシェチナヤ川禁猟区」は、カムチャツカで最も重要なガンの生息域である。保護をすすめるとこの禁猟区で繁殖するガンが急速に増えたのを確認できた。保護区の南側で、5〜7,000羽のヒシクイが換羽している場所が見つかった。
 「ウトホロク禁猟区」は1983年に設立された。夏には、3〜4,000羽の亜種ヒシクイが禁猟区の中心部にあるマエント湖と周辺の湖に換羽のために集まってくる。カムチャツカ半島東海岸には「コクガンの潟湖」という名前の禁猟区がある。
 1960年代から1980年代にかけて、北東アジアのガン類の個体数は、その多くが失われたことを知った。この間カムチャツカにおいてのみ、そこで繁殖するガンの数が維持され、また増えた。半島の西海岸では両亜種のヒシクイの数がかなり増加している。これらのヒシクイは半島の南東部の流域にも生息するようになった。これらの結果は、ガンの保護に焦点を絞った一連の禁猟区の設立や狩猟期間の制限によって成し遂げられた



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