2011年2月24日琵琶湖水鳥・湿地センター世界湿地の日イン湖北『ラムサール条約40周年を祝う!
シギ・チドリ類ネットワークと湿地保全
天野一葉(京都大学生態学研究センター、滋賀県立琵琶湖博物館)
渡りをする水鳥とその生息地である湿地を守る国際的な枠組みには、ラムサール条約、渡り鳥条約(日米、日露、日豪、日中)、環境保護協力協定(日韓)などがあります(図1)。シギ・チドリ類ネットワークは、1996年にラムサール条約締約国会議で採択された勧告6.4による、『アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略』のもとで発足し、続いてガンカモネットワーク(1999)、ツルネットワーク(1997)も活動を開始しました。日本はボン条約(移動性野生動物種の保全に関する条約)に未加盟のため、これらのネットワークが、生息域全体で渡り鳥を保全する貴重な枠組みとなっています。これらのネットワークは、2006年から、『東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(渡り性水鳥保全連携協力事業)』に引き継がれ、対象種も渡り性水鳥全般に広がりました。
図1
活動の目的は、渡り性水鳥とその生息地、これらに依存した人々の生活を守ることです。東アジア・オーストラリア地域フライウェイには、シギ・チドリ類、カモ類、ツル類など、絶滅危惧種 28種を含み、250以上の個体群、5000万羽以上の渡り性水鳥が生息しています。ネットワークには、現在、14ヶ国100ヶ所の湿地が参加しています。日本では31ヶ所の湿地が参加しています。
ネットワークに参加するには、自治体(市町村や都道府県)が参加主体となって事務局へ申請しますが、参加基準として、1.渡り性水鳥の2万羽以上が定期的に飛来する、2.渡り性水鳥の1つの種(あるいは亜種)の個体群の1%以上が定期的に飛来する、3.渡りの中継地では、5000羽以上または最小推定個体数の0.25%以上が飛来する、4.絶滅のおそれのある種の相当数を支えている、のいずれかを満たしている必要があります。例えば、ムナグロが渡りの時期だけに飛来する場合、 ムナグロの地域個体群の0.25%である400羽以上が定期的に(例えば5年間のうちの3年以上など)飛来しているという記録があれば参加基準を満たすことになりますが、事務局と種群ごとのワーキンググループによる個別の審査により承認されるかどうかが決まります。
これまでのシギ・チドリ類ネットワークの活動を1.参加地の拡大、2.普及・啓発、3.湿地の管理、4.ツールの作成、5.調査・研究にわけて紹介します。
1.参加地を拡大させ、保全に関心のある地域を増やすことは活動の柱の一つです。参加が決まると、地域の首長が事務局から参加証を受け取るセレモニーを開催して、地域内外へ湿地の重要性をアピールします。
2.自然の価値とその持続的な利用のための広報・教育・普及啓発(CEPA:Communication, Education and Public Awareness)を実施すべく、ネットワーク・水鳥の案内看板の設置や、湿地学習講習会、シンポジウムなどが各地で開催されています。例えば、八代市で開催された『球磨川河口潟がた会議』(図2)では、WWF香港のNicole Wongさんにより、マイポ湿地保護区や中国南部での環境教育の取り組みが紹介され、環境教育により「行動できる人をつくる」、「Think Globally, act locally」を実践しようとのメッセージが印象的でした。会議では、かつての球磨川河口の様子について一般の参加者も交えて意見を交換し、以前は貝やカニがたくさんいたことなどを聞きました。それぞれの地域で、かつての湿地の健全な状態がどうであったのかというイメージを、若者を含めて共有し、どのような状態へ再生させることを目標とするのかを皆で考えていく作業が重要だと思います。また、ネットワーク間の連携・情報交換のため、国内のネットワーク交流会や、谷津干潟(習志野市)とブーンドル湿地(オーストラリア・ブリズベン市)の姉妹湿地提携による国際交流も長い間行われています。
図2
3.湿地の管理の例として、福岡の多々良川(ネットワークには未参加)では、クロツラヘラサギのねぐら確保のため、河岸のヨシ原の一部の島化、草刈り、清掃活動や、人工島のコアジサシの営巣地を安全な場所へ誘導するための市民参加によるデコイ作成などが行われています。
4.活動のツールとして、ホームページ、メーリングリスト、ニュースレター、環境教育教材『地球を旅する渡り鳥たち』などが作成されています。
5.関連する水鳥の調査として、ハマシギ・ヘラシギ国際共同調査、アジア水鳥センサス、環境省モニタリングサイト1000調査、日中ズグロカモメ共同調査、クロツラヘラサギネットワークによる一斉調査などが行われています。
国際的には、毎年開催されるフライウェイパートナーシップ会議と同時にシギ・チドリ類ワーキンググループの会議も開催され、各国の活動の進展状況や課題について議論されています(図3)。
図3
また、オーストラリアシギ・チドリ類研究グループや国際シギ・チドリ類研究グループなど、国際的な研究グループがあり、研究成果を載せた雑誌を発行しています。前者は2年に1回、オーストラリアかニュージーランドで、後者は毎年、ヨーロッパを中心に大会(図4)が開催されています。
図4