2011224日琵琶湖水鳥・湿地センター

世界湿地の日イン湖北『ラムサール条約40周年を祝う!

世界湿地の日とラムサール条約40年の歴史

須川恒(琵琶湖ラムサール研究会※1・龍谷大深草学舎)

ラムサール条約は1971年に締結された湿地保全の国際環境条約で、日本は1980年に批准し、琵琶湖は1993年に条約湿地として登録され、2008年に西の湖が追加登録された。

ラムサール条約には湿地保全にむけての多くのアイデアがあるが、その中から特に重要と考える二つのアイデアについて紹介する。一つはCEPA(対話・教育・参加・啓発)で、もう一つは湿地目録の考えである。湿地目録の紹介の中では、私がどのようにラムサール条約に関心を持つようになったか、また今回お話しをいただくゲラシモフ親子と知り合った経過も紹介する。

湿地のCEPA活動(対話・教育・参加・啓発)
 1993年に第5回締約国会議が釧路で開催された時は、EPA(Education教育+啓発Public Awareness)とよばれていた。教育や啓発は、湿地について詳しい人()から詳しくない人()への姿勢を持つと言えるが、インターネットの普及によって、横の双方向性のある関係をつくることができるようになり、対話(Communication、広報とも訳されている)や参加(Participation)が加わり、CEPAとなった。

湿地のCEPA活動としては、さまざまな湿地の魅力や価値を多くに人々に伝えることに加え、ラムサール条約そのものの考えや活動を伝える目的がある。ラムサール条約では、1997年より、条約が採択された2月2日前後の期間に「世界湿地の日」として毎年のテーマを決め、このテーマを生かすポスターやリーフレットを事務局が準備し、各地の人々がそれらのテーマやグッズを活用して様々な活動をすることを推奨している。毎年のポスターをみると、ラムサール条約が湿地にかかわる実に幅広い活動にかかわっていることが理解でき、日本国内でまだ多い、水鳥(保護)だけの条約といった誤解を解くことができる。また、「世界湿地の日」の活動をした人は、事務局のその内容を報告することになっている。これらの情報の国別の一覧を見ることによって、国際的な連携にもとづいて、湿地保全が進められていることが理解できる(※2)

今年の「世界湿地の日」のテーマは、今年が国連森林年であることも関係して「湿地と森林」となっている。さらに、今年の「世界湿地の日」を特徴づけるのは、1971年の採択後40周年だという点である。最近、生物多様性条約や地球温暖化枠組み条約など国際環境条約について話題となることが多いが、締約国会議における決定事項などを理解しようとしても、歴史的背景を理解していないと表面的なものになりがちである。ラムサール条約は、最初の国際環境条約なので、40周年であることを契機に40年の条約の歴史を理解しておくことは有益である。日本語で、条約の歴史を知ることができる3冊の出版物を紹介する(※3)

湿地目録の考え方


 日本では、次世代に伝えるべき文化財の目録はよく整備されており、盗人に盗まれない形で管理され次世代に伝えられる。同じように、自然財を次世代に伝えるためには自然財の財産目録が必要である。種の財産目録としては近年国や自治体によってレッドデータブックが作成されている。次世代に貴重な湿地環境を手渡すために、貴重な湿地の財産目録すなわち湿地目録を作成することを条約は求めている。

私は、1980年頃から近畿地方のツバメ類の集団塒地の保護にかかわり、塒地となっているヨシ原(身近にある湿地)の目録作成の意義に気づいた。 同じような考え方で、1994年に日本雁を保護する会が出版した雁類渡来地目録作成に協力した。私が、ガン類にかかわるようになったのは1980年頃に、京都の鴨川で越冬するユリカモメに、カムチャツカのガン類研究でキーパーソンであるニコライ・ゲラシモフ氏らが標識した個体を確認したことであり(※4)、また1982年頃から湖北のガン類渡来地に関心を持つようになった。

 雁類渡来地目録は、日本国内の湿地保全に向けてさまざまな役割を果たした。湖北町に琵琶湖水鳥・湿地センターができるきっかけともなり、また環境省がシギ・チドリ類渡来湿地目録を出版する先導役も果たしたと思われる。

これらの目録で得られた情報は、ラムサール条約のシャードーリストとして環境省によって作成された「日本の重要湿地500」(2001)に統合された。この中では、水鳥によって国際的に重要と示すことができる湿地以外にも、さまざまな重要性を持つ湿地がとりあげられ、多様な湿地が登録されるベースの資料となっている。

※1;琵琶湖ラムサール研究会のウェブサイト

http://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/projovw.html

※2;世界湿地の日の詳細および毎年のテーマは以下

http://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/ovwwd1.htm

 ラムサール事務局の世界湿地の日についての最新情報が得られるサイト(英文)

http://www.ramsar.org/cda/en/ramsar-activities-wwds/main/ramsar/1-63-78_4000_0__

 今年が条約発足40周年であることを紹介しているサイト(英文)

http://www.ramsar.org/cda/en/ramsar-home/main/ramsar/1_4000_0__

※3;ラムサール条約の40年の歴史を日本語で理解できる3冊

マシューズ(1995)[ラムサール条約の歴史と発展]、琵琶湖ラムサール研究会(2001)「ラムサール条約を活用しよう!」、JAWAN(2008)「ラムサール条約入門」

※4;1982年にモスクワで国際鳥学会があり、私はニコライ&ユーリ・ゲラシモフ氏にはじめて会った。この会議でロシアのラムサール条約の展開に重要な人々に出会った。一人はイサコフ氏であり、もう一人はイリアシェンコ氏である。2014年に日本(立教大学)で国際鳥学会があるが、ラムサールう条約にとっても国際的に重要な人々が集まることであろう。

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