ワークショップ「里山環境における鳥獣害問題の課題を探る」の評価と見えてきた課題(まとめ案第2版)


(1)鳥獣害対策は種ごとの生態的特性の差や、地域差を科学的に把握することが前提となる。
 大井徹氏の岩手県の二つのクマの個体群の比較は「地域差」の特性を科学的に把握する重要性を明らかにした。横山昌太郎氏が紹介した特定鳥獣保護管理計画制度は、鳥獣害問題の解決を図るためには、「種差」「地域差」があるが故に「科学的把握」が重要であるとの前提を明らかにした。
(2)鳥獣害問題の前提となっている「被害」の実態を把握する
 鳥獣害問題を論ずるときに前面に出やすい「加害鳥獣を駆除すればすむ」あるいは「個体数調整のみ」という考えや、逆に「鳥獣を人間の都合で駆除」することへの反発などの対立の軸を背景に置き、被害の実態を共に認識するという点から出発することができた。これには、丸山徳次氏による企画趣旨の説明、百合野心氏による問題が起こっている地域の住民へのヒヤリングを基にした環境社会学的研究の講演の役割が大きい。

(3)鳥獣害発生の社会経済的背景を押さえ、生息環境管理・被害防除の具体的手法を科学的に明らかにした対策情報が求められている。
 この点について、ワークショップを通して理解が深まったと評価する意見が多かった。野間直彦氏の里山の縁を管理してイノシシ害を防ぐ実験の講演、寺本憲之氏の獣害への被害対策の具体的手法や普及に関するコメント、百合野心氏による獣害発生の社会経済的背景の講演によって、扱った事例は限られていても、獣害問題を理解し、その解決へ向けての方向性を把握するという点に関して、ポイントがかなり押さえられた構成のワークショップとなった。立澤史郎氏もコメントでその点は認めていた。
 単なる獣害対策だけでなくて、地域の産業の建て直しや地域づくりなども視野に入れながら対策を議論することが重要となる。
 地域住民の日常生活における山林・野生動物とのかかわりが断絶、あるいは単純化して多様な関わりが失われていることが、深刻な鳥獣害問題の背景にはある。この点において大井氏や寺本氏が指摘した、豊かな山林(奥山など)を育てることによって、鳥獣が人の生活圏に出て来ないようにするという考えは、具体的には言及はなかったが重要な課題である。

(4)具体的な問題解決に向けての課題の整理
・仕組みや体制づくり
  制度の誤った運用によって、他の多くの制度がそうであるように、ワンパターンの対応を地域にもたらさないかという憂慮も指摘された。特定計画制度についても、単に国が地方に問題を丸投げしたといったものにしないためには、その指針や得られる情報の公開・共有を国や地方がすすめるなど、制度を生かすための多くの課題がある。鳥獣害問題が持つ自然科学的・社会科学的側面の情報を地域住民に適切に伝え、どのような対策をつくればよいのかを、住民・行政・科学者などが共に議論する、様々なレベルの場が必要である。個体数調整という手法をどうとらえるかも、幅広い議論が必要である。
 様々な被害対策を総合的に合わせ技で進めていくことに加えて、里山に期待されている多様な機能を生かすために、手がかりとなる諸制度や考え方を組み合わせるかは、非常に難しいが重要な課題であると考える。立澤氏もコメントで指摘したように、そのような活動をコーディネートできる人をどう育てるかが重要なポイントとなる。
・過疎地は余力が残っていないという問への答えをそれなりに示せることが必要。
 過疎地に余力が残っていないといった点は、ワークショップの討論の過程で重要な課題であると多くの参加者が認識した。会場からの「獣害と闘う力が残っていない過疎地でどうすればよいのか」という切実な問に対して、「野間直彦氏が講演の最後に、里山に期待されている役割をばらばらにではなく併せ技で進めていくべきと提言した部分にその答えがあり、魅力ある地域ができれば若い人々もUターンしてくる」との会場からの指摘(コウノトリの郷公園研究部長池田啓氏による)が印象的だった。被害対策を併せ技で進めるという考えを、さらに拡張している提言を注目すべきと考える。

(4)里山を媒介として大学が地域と長くかかわり、鳥獣害問題を含む諸研究が龍谷大に期待されている。
 「龍谷の森」を媒介として大学が周辺の地域へとかかわる活動がはじまっている。今後、深刻な鳥獣害問題を把握できる程度にかかわるべき地域を広げ、 「ガラスケースに入った、生活を感じさせない里山を議論している」と言われないようにする必要がある。
 地域と大学が長期的なつきあいを持ち、里山環境における鳥獣害問題も含んだ、大学の教育・研究・地域貢献が期待されている。大学が地域に貢献するだけでなく、地域の様々な課題を総合的に解決することによって、大学というシステム自身が鍛えら育てられていく側面が重要と考える。
                   (取りまとめ 須川恒・百合野心(2005/12/18版))
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