龍谷大学里山学・地域共生学オープンリサーチセンター主催ワークショップ
          「里山環境における鳥獣害問題の課題を探る」 メーキングサイト
                  作業用ページ(2006年10月15日改訂版)

   このページは以下のワークショップの企画を進め,まとめる作業のためのものです。2006年6月に、龍谷大学里山学・地域共生学オープンリサーチセンターの2005年度年次報告書が出版公開され、その中(p1〜65及び巻頭口絵p5〜8)に本ワークショップの講演やディスカッションなどが掲載されていますので、学術的引用はこの報告書から行って下さい。以下の龍谷大学里山学・地域共生学オープンリサーチセンターのウェッブサイトにおいて、報告書の内容は公開されています。 → http://satoyama-orc.ryukoku.ac.jp/ 
 2005年度報告書→ http://satoyama-orc.ryukoku.ac.jp/report/report_2005/mokuji2.html
   このサイトの目的は、    
      1) このワークショップの企画広報過程や、当日に会場で配布された講演要旨集の内容など、ワークショップがどのようにできたのかの記録
      2) 関係するサイトへのリンクを示すこと
      3) 提起された課題について、今後の展開に関する情報を示すこと
   ワークショップの「メーキング」サイトであるとご理解下さい。

                            (ページ構成 須川恒)


里山ORCワークショップ里山環境における鳥獣害問題の課題を探る

日時 2005年4月24日(日) 午後1時30分〜5時
場所 龍谷大学瀬田学舎 1号館107教室

主催 龍谷大学 里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター

     http://www.ryukoku.ac.jp/web/map/seta.html 
 

開催趣旨

 「共生をめざすグローカル大学」を基本理念とする龍谷大学は、昨年、文部科学省私立大学学術高度化推進事業への採択を得て、里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター(略称「里山ORC」)を開設しました。里山ORCは「里山をめぐる人間と自然の共生に関する総合研究」をテーマとし、諸成果を広く一般に公開することを目的としています。
 さて今般、里山ORCワークショップ「里山環境における鳥獣害問題の課題を探る」を開催することになりました。万葉集の歌の中にも語られているように、昔から里山では野生鳥獣との軋轢の中で人々の生活が営まれてきましたが、近年特に大型獣(シカやイノシシ)による農業被害が頻発したり、昨年秋のようにツキノワグマが里地におりてきたことが大きな話題となっています。とりわけ昨年のクマ異常出没の問題に関しては、里山林の放置・荒廃が、野生動物の行動圏の変化に関係しているのではないか、という議論がなされていますし、究極的には日本の林業全体の問題と関わっている、ということも指摘されています。
 現代における「里山」の捉え方は、余りに林学的な見方によって規定されすぎているきらいがありますが、里山が人間と自然との相互作用システムの一形態であり、「地域生態系」としての性格を持つ以上、「里山をめぐる人間と自然の共生」を追究する里山ORCにとっては、地域の野生動物との共存・共生の問題を無視することができないと考えています。そこで、里山環境における鳥獣害問題が、里山学・地域共生学にとって重要な諸課題を突きつけるものと考え、その課題を探る目的で今回ワークショップを企画しました。里山ORC研究スタッフともども課題の発見に努めたいと思います。
 まず、鳥獣害問題を順応的管理手法で解決することを目指している特定鳥獣保護管理計画の概要を、環境省の横山昌太郎氏に紹介していただきます。この計画でも重視しているように、鳥獣害問題は、種別の生態的特性の違いはもちろん、地域個体群の実態を把握することが前提となります。この点について、ツキノワグマの地域個体群別による被害発生特性の違いを中心に大井徹氏に話題を提供していただきます。
 鳥獣害問題は里山環境の管理と深い関係があることを、滋賀県のイノシシ被害の現場に関わって調査を進めておられる野間直彦氏からうかがいます。また、イノシシ問題を中心に環境社会学的視点から研究を進めておられる百合野(赤星)心氏から、問題解決にあたっての人と野生動物の関係のあり方について問題提起をしていただきます。
 また、滋賀県においても深刻なカワウ問題に関して、特定計画の指針づくりに関わった須川恒氏より問題解決に向けての課題を指摘していただきます。
 さらに関係者からのコメントを得て、里山環境における鳥獣害問題に含まれる課題を整理したいと思います。

                        (画;大井徹『獣たちの森』東海大学出版会(瀬川也寸子画)より)

講演タイトルおよび講演者名(講演者プロフィール)

 開催趣旨説明「里山をめぐる環境問題としての鳥獣害問題」10分 
   丸山徳次(里山ORC副センター長、龍谷大学)

 鳥獣問題解決のための特定鳥獣保護管理計画制度
 
    横山昌太郎(環境省野生生物課鳥獣保護業務室)15

 ツキノワグマの出没に影響する生息地の条件について
   大井徹(森林総合研究所関西支所
30

 獣害を防ぐための里山管理
   野間直彦(里山
ORC研究スタッフ、滋賀県立大学環境科学部30

 『イノシシ問題』における問題構造
   百合野(赤星)心
(奈良女子大学人間文化研究科)30

 カワウ問題の現状と対策より
   須川恒
(里山ORC研究スタッフ、龍谷大学)15

コメント

 「獣害を防ぐための里山管理(野間直彦氏)」に対するコメン
    寺本憲之(滋賀県近江地域振興局農産普及課) 10分
       参考情報

 コメント:獣害問題が里山論に問いかけること
    立澤史郎(北大・文・地域システム科学) 10分
       参考情報


事前に想定した課題より

里山保全を考える上で鳥獣害問題は無視できない課題である。その解決へむけての手法には里山学・地域共生学を考える上で重要な事象や考え方を多く含む。
鳥獣害問題には共通する側面と、種や地域(個体群)によって問題の構造が大きく異なる側面がある。
鳥獣害問題を科学的・計画的・連携的な順応的管理手法によって解決しようとする特定鳥獣保護管理計画は問題解決に向けての重要な手法となる。
問題解決のためには里山保全にかかわる総合的な「あわせ技」が必要である。逆に獣害問題解決のために農林業の経済的動機がある現場は、里山問題解決のために優先的に取り組む動機をもった現場と言える。
問題が深刻でも問題が見えていない(invisible)状況をどのように解決するか。被害のとらえかたは手法や立場によって大きく異なる場合がある。
問題解決のためには、長期的にまた裾野を広げた取り組みが必要があるが、そのためには多方面の分野の世代を越えた人々の連携(CEPA対話・教育・啓発活動)が大切である。
鳥獣害問題の解決のためには、それぞれの分野に明るい行政・研究者・農林業等従事者・狩猟者・NGO等の並列の連携関係(情報の共有や議論の場)が重要である。そのためにも、自然系研究者に加え文社系(環境社会学・法学・民俗学・環境倫理学など)の様々な分野の研究者の役割や相互の関わりが大切である。
・地域で鳥獣害問題の解決にとりくむ対応主体が集団か個人かで大きく状況が異なる。鳥獣害問題を担う人々への視線が大切である。

質疑・討論で明らかにされた課題より

・過疎で苦しんでいる山村に獣害とたたかう力が残っていないという根本的問題をどう解決すればよいのか→野間氏の講演の最後の提言にその手がかりは示されている。鳥獣害や、森林保全など縦割りで、ばらばらに行われている対策を、自然財を生かし管理する総合的なものに変えることで魅力ある地域づくりが可能であり、そのような場所には若い人のUターン現象もおこる。
・山すそに遊歩道のようなアクセスしやすい道をつくることも大切ではないか。人々が家にこもりきりにならない効果があるのでは。
・小さなパイを巡って野生鳥獣と人々が取り合いをする状況では解決法はない。パイ自体をどう大きくするかを考える必要があるのでは。
・イノシシやシカなどの個体数増加にともないヤマビルやダニの分布拡大や個体数増加がおこり、人々が気楽に里山に入りにくい深刻な情況が発生している。ヤマビルはどうすればよいのか(→ヤマビル研究会のホームページをご覧下さい)。
・獣害対策の効果的手法があったとしても、実際にそういった手法が必要な地元にきめ細かく伝わる工夫が大切である→寺本氏が示したような地元に判り易い手法が必要であり、さらに氏が行っているような、地元に説明できる人を増やすプログラムも重要である(行政における「訓練」の意味)。
・計画があっても、昨秋のツキノワグマ問題などクマが危険との地元判断を動かす困難さがあり、特定計画で想定した個体以上の駆除となることがあり、計画の見直しが必要とされる(←見直しすべきという計画があったことはそれなりに評価できる(計画もない状態と比較すれば判る))。
・リゾート法をバックに全国に金太郎飴のような同じスタイルのリゾート開発が強行されたように、特定鳥獣保護管理計画は、地域性を無視した同じスタイルの鳥獣管理策を押し付けることにならないか→地域の人々の合意形成のプロセスはいろいろとあるが、地域の生態系の違いを生かした鳥獣保護管理ができるようにすることは大きな課題。・
・鳥獣害問題解決のためには里山外の奥山などとのネットワークも必要では。

実現を検討できそうな課題は何か

(まだORCとしての共有の認識があまりできていない状況でもあるので、込みいった検討や大がかりな予算・人材が必要といったものは先送りし、多少の努力があればとりあえずできそうな課題。外堀を埋めるとか、関係者間の風通しを良くすることができるといった課題を手はじめにあげて実現を計る)
ORCそのものの中心的課題や、周辺研究の課題としての位置づけ。
・大学の環境教育
(環境ソルーション工学科、環境サイエンスコースなど)の中の課題として。
・鳥獣害問題のCEPAに関する基本的書籍、基礎資料、情報など
・まずは本屋を通して手に入る本の一覧・入手など→参考書籍リストたたき台(参考となるウェッブサイト情報も付記)
 (大型獣による問題発生は比較的最近であるが、近年関連図書が出版されつつある。カワウはまだない。)
・特定鳥獣保護管理計画の経過や広がりに関する情報を共有するために
 環境省のマニュアル
(一般の人が手に入れにくいという問題の解決は)
  例:カワウなどは他に一般書がないので情報源としても貴重
  (生物多様性センターなどのサイトに公開できないものか?

 都道府県の特定計画の内容はウェッブサイトで公開されているものが多い(されていないのもかなりある)
  
都道府県単位の特定計画情報の整理紹介

 ワークショップ参加者のアンケートに書かれた意見より 

 ワークショップにより見えてきた課題(案) 



                  ワークショップの様子



講演者・関係者の方へ


 このページは検討後に、里山ORCのサイトにリンクすることで公開することを目指して作成したものです。
 2005年度報告書に併せて、ウェッブサイトを利用した展開が可能です。報告書では掲載できなかった資料を公開することも可能です。

 今後とも、このサイトの活用などについて
随時提案をしてください(ワークショップは続いています)。

ワークショップの企画広報過程の記録

講義概要「里山保全のための道具箱」(2006年9月に須川が行った講義概要)