鳥獣害問題解決のための特定鳥獣保護管理計画制度

環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護業務室
横山 昌太郎


 特定鳥獣保護管理計画制度(以下、特定計画)は平成11年の鳥獣保護法の改正により創設された。平成16年10月末現在、38の道府県において60の特定計画が策定されている。現在、鳥獣保護を含む自然保護への期待はますます高まりつつあるが、一方で野生鳥獣と人との軋轢も依然として各地で見られる。
 制度創設当時においても、北海道東部や日光地域をはじめ全国各地で、シカが地域的に著しく増加し、農林業に多大な被害を及ぼすとともに、森林や湿原などの生態系にまで食害による悪影響を及ぼし、また、イノシシやサルも、多くの地域で農業との軋轢を生じていた。一方、西日本に生息するツキノワグマも農林業被害や人身被害などの問題を引き起こしていたが、その一方で生息域が地域的に分断され、地域個体群としての絶滅が危惧されていた。こうした問題を解決し、人と野生鳥獣の共存を図るため、科学的・計画的な保護管理を実施するための制度が特定計画である。
 従来、野生鳥獣による被害等への対応としては、鳥獣保護法に基づく狩猟規制や有害鳥獣駆除しかなかったが、どちらも地域の野生鳥獣の生息状況などとは関わりなく実施されており、しかも対症療法的なものだった。これに対し、特定計画は、地域個体群の長期にわたる安定的保護を図ることにより人と野生鳥獣との共存を目指すべく、(1)科学的な調査・知見に基づく保護管理目標の設定、(2)生息環境の保全、被害防除対策、個体数調整等の対策の総合的な実施、(3)モニタリング(対策の効果の検証)の実施、フィードバック(次期計画への反映)システムの採用、(4)計画策定手続きの透明化、(5)国の適切な関与及び隣接都道府県との調整、等を制度の特徴としている。
 特にモニタリングとフィードバックの実施は、地域における生息数一つを見ても不確実性の高い数値になりがちな野生鳥獣の保護管理の実施においては、欠かすことのできない要素であるといえる。
 特定計画は、まだ各地域の具体的な計画が策定されてから十分な時間を経ていないことから、総合的な評価のためにはまだ多分の時間が必要と思われるが、平成15年度に各都道府県を対象に行ったアンケート調査では、制度そのものについては、特に問題点は把握されなかったが、特定計画に基づく各種事業の実施に当たっては、(1)地域別・年次別事業計画策定の推進、(2)調査・モニタリング手法の確立、(3)専門的知識を有する職員の確保、(4)調査・モニタリングのための予算確保、(5)市町村の役割の計画での位置づけ等が課題として明らかになっており、これらへの対応を検討する必要もあると考えられる。


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