カワウ問題の現状と対策より

須川恒(里山ORC研究スタッフ、龍谷大学)


 大型獣による被害問題が発生している主たる場所は里山やそれに隣接した農耕地であるが、カワウの主たる生息環境は湿地であり、しかも内陸部の河川や湖沼、都会地に接した沿岸海域と多様な湿地を選ぶ。

 かつては全国的に分布していたと考えられるカワウは、戦後個体数を減少し1970年代初頭には国内数箇所でしか集団営巣地がない状況となった。しかし、カワウはここ約20年の間に個体数が増加し、各地のねぐらやコロニーの数も増加してきた。ねぐらやコロニーのある林地では、営巣にともなう樹木の枯死や大量の糞にともなう問題が、また採食地である河川湖沼においては漁業権対象種に対する食害が増加して対策を求める声が強くなり、その状況はカワウの分布回復に伴って、全国的な広がりを見せつつある。

 このため、カワウに特定鳥獣保護管理計画をあてはめ、科学的なカワウの生態特性の把握や、モニタリング結果をふまえて対策を合理的に改良していくフィードバックのしくみをつくることが求められるようになった。

 カワウは特定鳥獣保護管理計画の対象とする最初の鳥類であり、哺乳類とは大きく異なった個体群の特性がある。ねぐらやコロニーと採食地を往復するカワウの1日の行動圏は広く、そのパターンは季節的に大きく変化する。カワウは水域生態系の高次捕食者であるために生物濃縮による有害化学物質の影響を受けやすい。

 カワウの生態に関しては未解明な点も多いが、季節的分布パターンの特性などが解明されつつある地域もある。適切な手法によって被害現場から追い払って被害を軽減した事例は増加しつつあり、経験の共有が必要である。銃猟による大量駆除や擬卵等による繁殖抑制などによる個体数調整は、まだ見通しのある科学的報告がないため、実験的な手法と位置づけ、長期的な効果測定を慎重に行う必要がある。

  カワウの特定計画を作成する上では、広域的な移動特性、様々なタイプの湿地を利用するという特性から、都道府県界を越えた実態把握のための協力や管理計画の調整などの連携や協力関係が重要となる。また、コロニーができやすいビオトープ型都市公園(野鳥公園など)の管理者間の情報共有や、内水面の現場に深くかかわる漁協単位に被害実態や対策の効果を把握して情報の共有を計る作業が有益と考える。湿地の持続的利用を図るために近年河川や湖沼などの湿地管理をする国や自治体の姿勢は湿地保全への方向へ大きく変化しつつある点をふまえ、カワウの群れに魚が狙われにくい河川構造への修復なども課題となる。

 
須川恒(編著)(1997) カワウによる竹生島植生影響調査報告書(平成7年度).pp110.カワウ環境研究会・滋賀県生活環境部自然保護課.
須川恒(2001)琵琶湖のカワウ問題から見えること.野鳥,2001年11月号(カワウ特集号):7-9.
成末雅恵・須川恒(2002)カワウに関する基礎研究と被害評価とその解決のための応用研究における課題.日本鳥学会誌51(1)(カワウ特集号):1-3.
環境省(2004)特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル(カワウ編).

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